きっかけはフジテレビ 大手企業の出稿差し止めは社会実験的な側面も

テレビ放送史上、前代未聞の事態に

 2003年のフジテレビのステーションコピー「きっかけはフジテレビ」。令和のフジ・中居騒動はまさに「きっかけはフジテレビ」の様相を呈している。

 年末にかけての週刊誌による中居正広のスキャンダル報道にキー局はだんまりを決め込む中、週刊誌やスポーツ紙は次々にネタを投下し、SNSではその真相をめぐり大騒ぎとなった。

 フジテレビの編成幹部N氏の関与が疑われる中、年明け17日、ようやく同局は港浩一社長の会見を開いた。しかし、臨時定例会見という名目で、出席を記者クラブに所属する特定の記者に制限したことやカメラの立ち入りを禁止し、静止画での公開になるなど、その閉鎖的で不誠実なメディア対応から、批判の集中砲火を浴びる事態になってしまった。沈静化のための会見がむしろ傷口を広げる結末となった。

 この会見後、トヨタや明治安田などがいち早く反応し、「総合的な判断」の名の下、同局への出稿広告の差し止めを表明した。大口のクライアントがCMの見合わせを表明したことで、大手企業を中心に次々と同調する動きが拡大し、70社以上のクライアントが差し止めなどの判断を下し、テレビ放送史上、前代未聞の事態を引き起こした。

 キッコーマン1社提供だった「くいしん坊万才」が、スポンサーであるキッコーマンの要請で休止に追い込まれたのは、事態の深刻さを物語っている。というのも、同社の取締役名誉会長である茂木友三郎氏はフジテレビの監査役を兼任しているからだ。本来であれば、最後まで守ってくれるはずの企業からノーを突きつけられた格好だ。

出稿差し止めは壮大な「社会実験」ではないか?

 ここまで短期間でフジテレビのCMの見合わせが広がったのは、フジテレビの組織としてのガバナンスの機能不全やコンプライアンスに重大な疑義が生じているからに他ならない。SNSの影響力が増す中で、CMを放送し続ければ、出稿企業にも火の粉が飛んでくる可能性がある。企業防衛策として「差し止め」の判断をするのは至極当然の判断だ。こういう事態に直面したとき、日本社会は「右にならえ」の力学が働きやすい。その力学が「差し止め」の流れを加速させた。

 さて、この一連の広告差し止めの動きを別の角度から見ると、これはフジテレビを揺るがす状況を超え、テレビ業界にとってターニングポイントとなる象徴的な出来事になる可能性をはらんでいる。

 数ヶ月間、テレビのCMを流さないということは、出稿企業からすれば、テレビCMの広告効果を計測する絶好の機会でもあるからだ。もし、フジに出稿していた企業のCMが数ヶ月の差し止めによっても売上に影響が及ばなかった場合、テレビCMの費用対効果を疑う声も企業側から起こってくる可能性もある。もちろん、テレビCMは商品や企業のブランド認知に絶大な効果をもつことは疑う余地もない。ただ、それが購買に直結しているかどうかは検証しにくかった。万が一、フジテレビでCMを流さなかったとしても、出稿企業の売上に影響がなかった場合、フジテレビのみならず、テレビCMの値崩れが起こる可能性がある。その意味で、クライアント企業からすれば壮大な〝社会実験〟的な側面もあわせもっているように思う。

衰退の「きっかけは~」フジテレビ!?

 電通が発表している日本の広告費によれば、地上波の広告費は年々縮小傾向にある。23年は対21年比で約7%落ち込んでいる。一方でインターネット広告は対21年比で約23%も市場を拡大している(「2023年 日本の広告費」電通)。
すでに縮小傾向にあるテレビCMの広告費の値引き交渉が業界全体に広がるおそれさえある。
 広告収入が減るということはコンテンツ制作にお金がかけられなくなることを意味する。コンテンツの質が下がれば、ますますテレビ離れが加速していくだろう。
 トヨタの「トヨタイムズ」のように、すでに自前で情報発信できる仕組みを作り上げた大企業からすれば、今回の騒動は広告宣伝費を圧縮するまたとない機会ともいえる。もちろん、新聞やテレビに広告費を落とすのは、企業が不祥事を起こした際のリスクヘッジにはなるから、これらメディアの広告費がなくなることはない。ひとつ言えるのは、大手企業しか手の届かなかった高額なキー局のテレビCMが、将来的に値崩れを起こしていく「きっかけ」をフジが作ってしまったということだ。
 ブームの「きっかけ」を作り、テレビ業界の牽引役だったフジテレビ。そのフジテレビがテレビ業界衰退の「きっかけ」づくりをしてしまったとしたら、これほどの皮肉はない。

 

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