【しいたけ選書】「ほめると子どもはダメになる」(榎本博明)

書評:榎本博明『ほめると子どもはダメになる』

近年、子育てや教育の現場では「ほめて育てる」という方針が広く支持されています。子どもの自尊心を育てるには、否定するのではなく肯定することが重要であり、「ほめる」ことがその中心的な手法として用いられてきました。しかし、榎本博明氏の著書『ほめると子どもはダメになる』は、この「ほめる教育」に鋭く切り込み、私たちの思い込みに対して警鐘を鳴らしています。

著者は心理学者としての研究と実践を通じて、「ほめられること」が子どもの内発的な動機づけを損ない、結果として自立心や忍耐力を弱めてしまう可能性があると指摘しています。たしかに、ほめることによって一時的に子どもが努力したり良い行動を取ったりするように見えるかもしれませんが、それが「ほめられるために行動する」という外発的な動機にすり替わってしまうと、本来育てたいはずの主体性や責任感が失われてしまいます。

本書では、アメリカの心理学者エドワード・デシ氏の研究をはじめとする数々のデータを紹介しながら、「ほめる=良いこと」という単純な図式に疑問を投げかけています。たとえば、テストで高得点を取った子どもに「すごいね!」と声をかけることは一見すると良い関わりのように思えますが、それが習慣化すると、子どもは「良い結果を出さなければ認めてもらえない」と感じるようになり、逆に大きなプレッシャーを抱えてしまうのです。

また、著者は「努力そのものに価値を見出す姿勢」の重要性を強調しています。失敗を恐れず、挑戦する姿勢を育てるためには、過度な称賛よりも、的確なフィードバックや丁寧な対話のほうが有効であると述べています。この視点は、子どもの教育に限らず、大人の育成や職場でのマネジメントにも活かせる内容です。

レコメンド:

本書は、教育に関わるすべての方々、特に保護者や教師の皆様にぜひお読みいただきたい一冊です。子どもを伸ばそうとする意図でかけた言葉が、実はその成長を妨げている可能性があることを知ることは、大変貴重な気づきになるはずです。読み進めるうちに、自分自身の言動や関わり方を自然と振り返ることができるでしょう。

また、「ほめる」という行為に安易に頼るのではなく、「どう関わるべきか」「何を伝えるべきか」といった本質的な問いを立てる大切さを教えてくれます。本書は単なる教育論にとどまらず、人間関係全般を見直すきっかけにもなります。子どもを信じ、その成長を見守るとはどういうことか――その問いに静かに向き合わせてくれる、深い示唆に富んだ一冊です。

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